新しい哲学について

①近代以前の東洋世界には哲学と呼べるものがなかったという説が、以前からある。哲学という言葉自体が、明治初年の啓蒙主義者である西周(にしあまね)による造語であり、それまでは彼が哲学とみなす思想は東洋世界には存在しなかったと思われていたのである。もちろん東洋世界には、それ以前から徳の思想があり、江戸時代には西洋芸術・東洋道徳という言葉(西洋思想における科学技術優位と東洋思想における道徳優位とを対置したり、両者の共存或いは統合を求めたりする言葉)もあり、これらの思想は本来的に哲学に属す思想である。しかしここで言われる東洋思想は、一般に社会生活における規範的思想であり、明治になって注目された西洋の哲学的思想とは著しく異なっていた。